広島地方裁判所 昭和23年(ヨ)57号 決定 1948年12月20日
申請人
株式会社 中国新聞社
被申請人
全日本新聞労働組合中国新聞支部
当裁判所は申請人の申請を理由があるものと認め申請人に保証として金三十五万円を供託させ次の通り決定する。
主文
申請人が被申請人に対して提起する左記物件占有保全の本案判決が確定するまで、
(一)、被申請人組合員は広島市上流川町二番地所在株式会社中国新聞社の社屋中二階の編集局文選場植字場鋳造場一階の印刷工場発送場自動車置場に出入してはならない。
(二)、申請人の委任する広島地方裁判所執行吏は前項の事実を適当な方法で公示しなければならない。
申請
広島地方昭和二三年(ヨ)第五七号仮処分申請事件(昭和二三、一二、二〇申請)
一、当事者
申請人 株式会社 中國新聞社
被申請人 全日本新聞労働組合中國新聞支部
二、申請の趣旨
申請人が被申請人に対して提起する左記物件占有保全の本案判決が確定するまで、被申請人団体員は廣島市上流川町二番地に所在する鉄筋コンクリート建三階建坪四百十坪の社屋に出入することを禁ずる旨の御裁判を求める。
三、申請の理由
(一)、被申請人団体は申請人の従業員を以て組織する組合である。その名称を全日本新聞労働組合中國新聞支部というておるが被申請人団体員が全日本新聞労働組合に個人加入しておるに過ぎない。
(二)、被申請人は申請人に対し年末資金として金八〇八三円(賃金ベース相当額)を被申請人団体員にそれぞれ支給することを要求した。申請人会社の経理状態としては、赤字金融によるも十二月中に金五千円昭和二十四年一月より三月に至る間(右八〇八三円の賃金ベースに更に従来毎月支給しておる金五百円の外)一率に月金五百円を支給するのが最大限度であるから、申請人は被申請人に対し経理を公開した上この線で妥結することを要請した。しかるに、被申請人はこれに応じないで昭和二十三年十二月十七日午後六時二十分より全面的無期限罷業に突入した。
(三)、申請人は新聞の公器性に鑑み経営者の能力により新聞発行を継続する決意を有しておる。しかるに、被申請人団体員は申請人の業務の遂行を妨害する目的を以て、
(1)、昭和二十三年十二月十八日午前九時半頃から申請人の占有する活字入ケース全部四百五十六個を清掃整備に名を藉つて備付棚より恣に工場の板張におろしよつて文選(活字を拾うこと)を不能ならしめ、
(2)、直ちに印刷に附し得る組版をくづして印刷を不能に陥らしめる行為を敢行した。これが為申請人は十二月十九日附新聞は通常の二頁新聞を発行し得たに拘らずタプロイド版を発行するの余儀なきに至つた。
(3)、十二月十九日午前十一時四十分頃川本部長、櫻田部長の両名は印刷局文選場において文選しておつたが被申請人団体員五六十名は右両名を包囲して罷業につき諒解を求める名目の下に折衝を継続した。右両名は執務不能に陥つたので已むなく職場を引揚げるに至つた。其の後更に右両名は文選場に入り執務せんとしたが多数の被申請人団体員に囲繞せられ執務不能であつたので再度職場を引揚げた。それが為二十日附のタブロイド紙は遂に発行できなかつた。
(四)、被申請人団体は輪転機その他新聞発行に必要な施設什器類について申請人の占有を妨害せんとする形勢にあることは前記の事実により明瞭であるのみでなくストの長期化に伴いいかなる占有妨害が発生するかもわからない。
(五)、被申請人団体員は後記の如く三五二名でその中何人が右の占有妨害の行為を敢行するかも判らない。この妨害を予防する手段としては被申請人団体員に本件争議が解決する迄申請趣旨に記載する措置を講ずるの外途がない。
(六)、申請人は右の趣旨により被申請人に対し占有保全の本訴を提起する為その準備中であるが本訴の確定を待つときは急速に対処することが出来ないので緊急状態に対する方途として取敢えず本申請に及んだ次第である。
広島地方裁判所 御中
(別紙目録省略)